ドラマの女王

〜其の一 トレンディドラマの歴史〜

 ドラマは世に連れ、世はドラマに連れ。連日必ず放送されるTVドラマこそ、教科書で習う日本現代史を補う貴重な資料と考えられます。世相・風俗を顕著に反映させている生きた資料!ワタクシは『魏志倭人伝』から弥生時代の歴史や風俗・社会のなりたちを考えた江戸時代の学者達の様に、TVドラマから日本現代史を考察していきたいと思います。
 さて、TVとともに成長してきたワタクシですので、ドラマに就いては枚挙にいとまがないので、今回は特に「トレンディードラマ」の誕生から衰退までを追っていきます。
トレンディドラマの誕生
 今をさかのぼる20年前ごろ、日本列島は"バブル景気"という未曾有の好景気に踊らされていました。毎日がお祭さわぎの様な日常の中で人々が目をむけるものといったら、ファッション・グルメ・ブランド等。生まれてきてからこのかた平和な社会しか知らない若い世代によって、恋愛至上主義的な華やかなライフスタイルが確立されたのです。当然、TVドラマにもそれは反映され、「トレンディドラマ」という今となっては気恥ずかしくなる様な内容のドラマが誕生し、全盛となりました。
 さて、「トレンディドラマ」の初期の雛型は、1985年からTBS系で放送された「金曜日の妻たちへ」にみられます。このドラマの主題はあくまでも"不倫"ですが、3組以上の男女が洒落たライフスタイルを背景に、入り乱れて恋愛を繰り広げるというパターンはそのまま後に受け継がれることになります。
 そして1987年放送の「男女七人夏物語」(TBS系、主演:明石屋さんま・大竹しのぶ)の大ヒットにより、「トレンディドラマ」のパターンは決まりました。それは、主役級の男女以外必ず2組程度の脇役が出演し(しかもうち1組はお笑い系である確立が高い!そして、必ず主役に恋をしたあげく振られ、ドラマを盛り上げる。)、お洒落なレストランやデートスポットを舞台に恋のさや当てを繰り広げるというものである。これ以後大ヒットしたドラマはすべて、「男女七人」の亜流であるといっても過言ではない。
W浅野の登場
 「トレンディドラマ」史において、特筆すべきはW浅野(浅野温子・浅野ゆう子)の登場であろう。彼女たちが主演した1989年の「抱きしめたい」(フジ系)はまさに「トレンディドラマ」の人気を決定ずけた作品!これ以後、W浅野の様なファッションリーダー系(女性雑誌と必ずタイアップ)が主演女優の主流となり(さらにはあくまで女性主役がヒットドラマの原則となった)、さらにファッション性が重視される傾向になりました。また、この頃から、相手役の男優たちの顔ぶれもだいたい定着し、同じ様な顔ぶれの組み合わせが増えてきます。これらのドラマにくり返して使われるテーマは"恋愛"ですが、前時代の苦しく悩みのつきない恋愛とは性質は異なり、あくまでお洒落で軽やかな、ファッションとしての"恋愛"が描かれています。

※主演女優の系統別分類と主な主演ドラマ

ファッションリーダー系 ナチュラル系 アイドル系 お嬢様系
浅野温子(抱きしめたい、
101回目のプロポーズ)
浅野ゆう子(抱きしめたい、恋のパラダイス)
今井美樹(想い出にか
わるまで)
中山美穂(君の瞳に恋してる)
小泉今日子(愛しあってるかい)
安田成美(同級生)
鈴木保奈美
(東京ラブストーリー)


トレンディドラマの金字塔
 主演女優にからむ相手役の男優は、三上博史や本木雅弘などの正統派二枚目俳優(当時は石田純一もこれに含まれた!?)や、さわやか体育会系の柳葉敏郎、ちょっとやんちゃで不良っぽい陣内孝則などが多く見うけられました。そんな中、1991年に「トレンディドラマ」の中でも革命的なドラマが放映されます。この「101回目のプロポーズ」は当時日本のいい女の代名詞だった浅野温子が主演。しかし、相手俳優は、定番の二枚目俳優ではなく、なんと金八先生でおなじみの武田鉄也が起用されたのです。このミスマッチな二人が主演したドラマは歴代視聴率のなかでも当時最高を記録し、武田の名ゼリフ「僕は死にましぇーん」は流行語に。またチャゲあすの歌う主題歌「SAY YES」も大ヒット!なぜ、今までのドラマのセオリーからずれるこのドラマは大ヒットしたのでしょうか?それは、お見合いをしても100回も振られるくらい、ちっとも格好良くない中年オヤジの武田鉄也の迫真の演技が、優男とのまったりとした現実離れのしたドラマに飽きがきていた視聴者に強烈な印象を残したからに違いありません。この頃から「トレンディドラマ」には少し変化のきざしがみえてきています。それまでは、あくまでもファッション性重視で人間像は二の次だったドラマの主人公の性格が丹念に描かれるようになってくるのです。
脚本家の時代へ
 北川悦吏子と野島伸司といえば、大ヒットドラマを次々と生み出す、まさに脚本家の大御所ですが、「トレンディドラマ」がすこしさかりをすぎた1992年に、ともに彗星のごとく登場しヒットをとばしています。北川の「素顔のままで」(フジ系、安田成美・中森明菜主演)は女の友情がテーマになっており、ストーリはアメリカ映画を多少パクっていたとしても、恋愛から友情に目をむけさせた作品としては功績が大きいでしょう。対する野島も「愛という名のもとに」で友情や仕事・人間関係のしがらみに悩む若者たちをみずみずしくかつ生々しく描ききり(これもまたアメリカ映画『ホテル・ニューハンプシャー』の影響が大きいといわれているが)、大ヒットををとばしました。この「愛という名のもとに」の大ヒット以降、視聴者は従来の「トレンディドラマ」には満足しなくなり、"自分探し"がテーマか、「ずっとあなたが好きだった」(1992年TBS系、主演佐野史郎)に代表される病んだ主人公が登場するドラマが主流となるのである。(つづく)

トップページへ